政党法は果たして必要か
政党法の制定を求める声が政界・経済界から相次いでいます。会社法・コーポレートガバナンスコードとの対比から、政党ガバナンスをどのような形式で規律すべきかを考えます。
1 日本には存在しない「政党法」
政党に関するルールがないため、きちんと法律を作ったほうがよいのではないか―。
2026年2月に実施された衆議院議員選挙に向けた自由民主党の政権公約では、「政党法の検討を行」うとされました1。他の政党でも、政党法制定を掲げていたところがありましたし、経済同友会などの経済団体も、政党法を制定するよう以前から提言しています2。
平成に行われた政治改革によって、選挙は「政党中心」で行われることとなりました3。国政選挙では比例代表制が採用されていますし、我々国民も、選挙の際に、どの候補者がどの政党に所属しているかは極めて重要な要素といえるはずです。
ところが、日本の法律の中には、政党について「正面から」規定した法ルールはありません。 政党の政治活動の発達を促進するための政党助成法、ほかにも、政治資金規正法、政党法人格付与法などはありますが、政党とは一体どのような存在で、何を目的として、どのような内部組織でもって運営・統治されるべきかといったことを正面から規定している法律は存在しないのです。
果たして、政党法を制定すべきか否か。実はこれは重要な問題提起であると同時に、これまで何度も繰り返されてきた問題提起であるといえます。
2 政党のガバナンス構築
政党法の制定が叫ばれている理由は様々だと思いますが、主なものとしては「ガバナンス」を明確にするためという理由が大きいでしょう。経済同友会の提言でも、政治のガバナンスを強化することを求めていますし、自由民主党の政権公約においても「政党ガバナンスを明確化するため」に政党法の制定を検討するとしています。令和臨調も同様です4。
確かに、株式会社について考えてみると、会社法という法律があります。一定の規模の株式会社の場合、取締役を複数選び、そこから、さらに代表取締役を選任しなければなりません。取締役は取締役会を構成して、代表取締役を監督します。 あまり知られていませんが、取締役会というのは、代表取締役が暴走したり、私服を肥やさぬよう、きちんとウォッチすることが求められています。そして、その取締役(会)に対しては、株主総会が監視の目を光らせています。
このように、会社法は、一つの場所に権力が集中しないよう、「株式会社」が健全に運営されるために一定の組織ルールを設けています。
日本では、平成の政治改革以前の選挙制度の名残なのか、政党が民意を吸い上げ、議員を束ね、そして組織としての集合知を統合していくという発想が乏しく、政党は、各政治家(個人商店)の寄せ集めという感覚が強いように思います。 政党自ら、執行部が暴走しないよう監督するシステムを設けたうえで、民意を着実に吸い上げ、集約・統合し、それを政策に落とし込むような組織づくりが必要です。ところが、上記で述べたように、政党ガバナンスについて規定したルールはありません。 政党の不祥事が叫ばれる今だからこそ、政党内のガバナンスを適切に構築する必要があるといえるでしょう。
3 政党法と憲法との関係
ただし、政党ガバナンスを規律する必要があるとしても、それを「政党法」という形で行うかどうかについては、また別の問題です。
憲法21条1項は「結社の自由」を保障しています。この条文から、政党は、政党としての意思を形成し、その実現のために活動する自由を持つと考えられています5。これは、国家(政権与党)が気に入らない政党を法律で規制・潰すことができてしまう危険があるためです。 したがって、国家が、政党の運営について、不当に介入することは許されません。
ただ、「不当に」介入できないとしても、いつ何時でも介入できないかについては、学説上、対立があります。 いかなる制約も許さない「徹底した自由」があるとする学説6もあれば、不合理な規制は許されないが、合理的な規制については許容されるとする学説7、政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素であって公的性格が強いがために、一般の私的結社よりも一定の規制を加えることが可能であるとする学説8など様々なものがあるのです。
4 政党ガバナンスコードの制定
私は、政党交付金を受け取っている政党に限っては、公金を受け取っている以上、むしろ積極的に一定の監督が要請されるのではないかと考えますが9、いずれにせよ、政党法を制定する場合、国家の政党運営に対する介入ではないのかという論争は避けられません。
そのため、私は、政党ガバナンスを規律するルールについては、「法律」という形ではなく、まずは「ガバナンスコード」という形式で規律すべきだと考えます。
ガバナンスコードというのは、法律ではありません。 2015年に東京証券取引所が「コーポレートガバナンスコード」を策定しました。これは、法律ではなく、東京証券取引所が、会社の執行部が暴走を起こさないように、持続的な成長と中長期的な企業価値向上が図られることを目的として策定したルールです。株式会社は、会社法という法律で様々なルールが規定されていますが、同時に、より踏み込んだルールとして、コーポレートガバナンスという形式でもなされているのです。
コーポレートガバナンスコードの場合、遵守するかどうかは、自分で決めてよいとされます。仮にそれを守らない場合には、「遵守せよ、さもなくば説明せよ(Comply or Explain)」として、なぜ守らないのかの説明を行えば足ります。守らずとも、説明そのものが誤っていても、はたまた説明すら拒否しても、法律でない以上、法的な制裁は課されません。
私は、政党に対するルールメイキングも、「政党法」という法律ではなく、まずは政党ガバナンスコードという形から規制を始めるのが良いと考えています。 人々に新しいルールに適応するための機会を与えるためにも、いきなり法律でもって制定するよりも、ソフトロー(法的罰則を伴わない緩やかなルール)という形でもって規定することが最初の一歩として意味があると考えるからです。
Footnotes
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自由民主党「令和8年 政権公約(第51回衆議院議員選挙 自由民主党届出パンフレット 第1号)」46頁。 ↩
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新浪剛史「透明性と説明責任ある政党ガバナンスの確立により、国民の信頼の回復を-政治資金事案に対する意見-」(経済同友会、2024年1月30日)。 ↩
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飯尾潤「政党・選挙・政権公約」佐々木毅・21世紀臨調『平成デモクラシー 政治改革25年の歴史』31頁(講談社、2013年)。 ↩
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令和国民会議(令和臨調)「『令和の政治改革大綱』に向けて――日本の民主政治のガバナンスを再確立する――」(2025年6月18日)。 ↩
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小野義康『日本国憲法と政党』(日本評論社、2024年)60頁。 ↩
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長谷川正安「法律時評」法律時報55巻9号7頁(1983年)。 ↩
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丸山健『政党法論』(学陽書房、1976年)162頁、佐藤幸治『憲法〔第3版〕』(青林書院、1995年)128~129頁参照。 ↩
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芦部信喜『憲法学Ⅲ 人権各論(1)〔増補版〕』(有斐閣、2000年)529頁。 ↩
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松井茂記『日本国憲法〔第4版〕』(有斐閣、2002年)137頁も「公的助成を受けるための要件として、党内民主主義を要求…することは許されてもいいであろう」と指摘しています。 ↩