政治家がSNSでだれかを批判するとき、またはSNSで誹謗中傷を受けるとき、どのような発言・発信・投稿が名誉毀損表現になるのでしょうか。

〔この記事のまとめ〕

 その投稿が人の評判や評価を貶めるものであるか、仮に貶めるものであっても、全く事実無根のエピソード、虚偽の事実関係を前提とするものか、真実を前提にしている場合であっても、言い過ぎてはいないかを吟味しましょう。

〔本文〕

 現在、多くの政治家がSNSを使っています。自らの政治的スタンス、政治的な考え方を外部に発信する必要があるからでしょう。自分の人柄を知ってもらうために、日常的な出来事を発信する必要もあるかもしれません。

 政治家が政策論争したり、自分の考えをアピールすることは有益です。投票をする側の人間は、その政治家がどんな人かを知ることができるわけですし、投票の際の判断材料にすることができます。

 しかし、政治家本人がSNSを使用するなかで、つい筆が滑って、誰かの名誉を傷つけたりすることがあります。その場合には、炎上したり、大きな問題になります。ですから、投稿には細心の注意を払う必要があります。

一方で、政治家は、厳しい批判、意見を受けなければいけないポジションだからか、目を覆うような、ひどい誹謗中傷がなされているような例もあります。政治家に対しては、何を言っても許されると思っているのでしょうか。これもまた、大きな社会問題となっており、政治家を続けられない原因の一つになっているように思えます。

 誰であろうと、名誉は保護されなければいけません。政治家であろうと同じです。この社会では、他の人から一定の評価を受けて暮らしています。この「他の人から受ける評価」を傷つける行為は、名誉毀損表現と呼ばれます。

  例えば、政治家が以下の発言をした場合、またはされた場合、言及されている人の評価を傷つける発言になりそうです。

㋐「〇議員は議員会館で、賄賂として500万円をもらっていた。議員の資格はない。早く辞任すべきだ」

㋑「昨日の衆議院本会議で、□大臣は☆と答弁した。人の心がないのか。極めて下劣な人間であって、心から軽蔑する」

 このような投稿・発信がなされた政治家は内心面白くないかもしれませんが、一方で、このような投稿・発言すべてが名誉毀損として「違法」ということになっては、およそ政策論争することができません。政治家は公人ですので、公人が行うことに対して、批判されることは時として意味があるわけです。

 そこで、上記㋐㋑の発言は、その政治家の評価・評判を貶める表現ですが、すべて名誉毀損に当たるわけではありません。

 ここで難しい話に入って恐縮ですが、最高裁判所は、以下の要件が備われば、人の「評価」を貶めている名誉毀損表現であっても、「違法」にはならないと整理しています(ここでは「意見論評型」を取り上げます。「事実摘示型」は説明を省略します)。

❶SNSの投稿などで言及する事柄が公共の利害に関する事実であること(SNSの投稿が多くの人が  関心を寄せるような事柄をテーマにしていること)、

❷表現者が専ら公益目的を持っていること(投稿者が、決して、私怨などの気持ちからではなく、社会のために発信していること)、

➌論評の前提となっている事実関係が真実であること、仮に真実でないとしても真実であると信じるだけの具体的な理由根拠があること(投稿者が虚偽ではない、真実の事実関係を前提としていること、もし真実でなかったとしても、真実と思わせるだけのきちんとした根拠・資料が備わっていること)、

❹対象者への論評や評価が、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでないこと(その投稿が人のことをバカにし過ぎていないこと)。

 つまり、人の評価を傷つける、貶める投稿・発信をしたとしても上記の❶~❹の要素があれば、その投稿は違法なものにはなりません。

 ❶~❹のうち、特に気を付けたいのは、➌と❹でしょうか。

 問題となっている投稿が、「嘘の事実関係を前提にしていないか」という観点と「その投稿は言い過ぎではないか」という観点が重要かと思います。

 政治家自身がSNSで発信するときも、またSNSで批判を受けたときも、まずはその投稿・発信が、

・人の評価・評判(名誉)を傷つけるかどうか、

・(傷つける場合であっても)それは全く事実無根のエピソード、虚偽の事実関係を前提としているものではないか、

・(真実を前提にしている場合であっても)その投稿・発信は言い過ぎになっていないか、

 という観点から、SNSの投稿や発言を吟味することが必要でしょう。

 上記で紹介した投稿について、もしも、自分が政治家で投稿をされたとしましょう。

 ㋐「〇議員は議員会館で、賄賂として500万円をもらっていた。議員の資格はない。早く辞任すべきだ」

㋑「昨日の衆議院本会議で、□大臣は☆と答弁した。人の心がないのか。極めて下劣な人間であって、心から軽蔑する」

 その場合、本当に500万円を賄賂としてもらっている場合であれば、㋐の投稿は真実を前提としているので、違法にはなりません。

 ㋑についても、本当に投稿のとおりの答弁であれば、真実でしょうし、「下劣な人間」といわれるのは、(癪でしょうが)言い過ぎとまではいえまえせんから、違法ではないでしょう。

 言い過ぎかどうかについてですが、例えば、下記㋒の投稿は平成28年8月30日に東京地方裁判所で言い渡された判断ですが〔判例秘書番号:L07131856〕、「言い過ぎ」ではない(人格攻撃になっていない)と判断されています。

㋒「〇市長の児童館の廃止は市民の声を聴いていない許されない。その手法はヤクザそのもの。市長失格。」

 一方で、平成20年9月5日に言い渡された東京地方裁判所の判断では、私人が東村山市議会議員を対象に「東村山市議会に辞職勧告要求を出したバカ」「脳味噌にウジがわいたアホ」「東キチガイ新聞」「キチガイババア」「このキチガイ臭は」「こんな救いようのないバカ」「東村山を代表するバカ市議達」「狂人議員達」「もはや狂っているとしか言えない問題ばかり巻き起こしている議員」「狂人共」などと指摘したことについて、執拗に述べていること、「脳味噌にウジがわいたアホ」との過激な表現をしているため、人身攻撃にあたると判断しています。

 政治家のみなさんが、SNSで発信するとき、またはSNSで批判や誹謗中傷を受けたとき、どのような場合が「違法」になるのかはSNSを駆使するこの社会では重要なスキルであると考えます。

タイトルとURLをコピーしました