「政治とカネ」に関する不祥事はどんなものがあり、何が問題なのでしょうか。企業献金についても教えてください。

〔この記事のまとめ〕

 政治とカネに関する不祥事は、公職選挙法違反、政治資金規正法違反などが想定されます。これらは、公正・正確に反映されなければならない選挙結果を歪め、汚職等を呼ぶ可能性があるため許されません。企業献金については一律に禁止したほうがよいのではないかという考え方もあります。

〔本文〕

政治家や候補者が政治活動を行っていくには、お金がかかります。また選挙をする際にもお金がかかります。どの程度のお金がかかるのかは、選挙の仕方や立場などで変わるようですが、いずれにせよ、活動していくために、お金が必要であることは間違いありません。

そのため、昔から「政治とカネ」にまつわる不祥事はずっと続いています。

まず、どのような不祥事が想定されるのかを考えてみたいと思います。

公職選挙法は選挙運動を行ううえでのルールを規定しています。選挙運動に用いるためのポスター、ビラについて枚数、規格などを定めていますし、街頭演説についてもやり方や許容される時間帯など決めています。公職選挙法は、選挙を行ううえでの基本的なルールを細かく定めているといってよいでしょう。

公職選挙法の中には「買収罪」という犯罪が規定されています。これは、候補者が当選するため、お金等を渡したりすることを言います。買収罪は犯罪ですので、該当すれば刑事罰が科されます。仮に当選しても無効になってしまいますし、5年(場合によっては10年)は選挙権・被選挙権が停止されます。

また、政治資金規正法は、政治団体にきちんと収支を公開するよう求めたり、寄附についても、対象者による制限や寄付額について細かく規定しています。政治資金の収支を国民に公開するよう求めつつ、政治資金の授受の規正を定めているといってよいでしょう。

政治資金規正法に違反した場合も刑事罰が科されます。ただ、政治資金規正法違反で一番問題になるのが、政治資金収支報告書の虚偽記入や不記載と考えられますが、その場合には、政治団体の会計責任者(政治資金収支報告書の記載が義務付けられている人)が責任を問われることになります。議員には共謀の立証がなされない限り、現行法上は責任が発生しない構造になっています。

しかも、政治資金規正法違反で実際に起訴されている事案をみると、虚偽記載の額が高額であるなど、悪質性が際立つ場合などでなければ起訴されていないような印象を受けます。そのため、軽微なミスであれば、起訴されていないというのが実情でしょう。

「政治とカネ」にまつわる代表的な不祥事は上記のとおりですが、不祥事が起こると、報道されたり、場合によっては役職や議員を辞したり、はたまた逮捕されて起訴されるなど、様々な事態に発展しますので、このようなことがあってはなりません。

では、次に「政治とカネ」に関する不祥事は、なぜ問題とされるのでしょうか。法律に違反しているという意味ですでに許されないことですが、もう少し掘り下げて、なぜ問題なのかを考えてみたいと思います。

それは、「お金で」国民からの意見(民意)を曲げてしまい、特定の人や業者との癒着を呼び、汚職が発生する事態を呼ぶ可能性があるからです。

この国は民主主義を採用しています。国民であれば、一人一票の選挙権を持っており、自分が託したい候補者や政党に票を投ずることで、その候補者や政党所属の候補者が当選します。そして、当選者が、国民の代表として政治に取り組みます。

投票においては一人一票が原則であり、性別や所得額によって、二票持つことは許されません(ここでは議員定数不均衡の問題はおいておきます)。

だからこそ、投票者の全員の意思をできるだけ公正・正確に議会に反映されなければなりません。投票者の意思が反映された議会によって、政治が執り行われねばなりません。

しかし、買収や政治資金規正法違反などが横行すれば、これが歪められます。例えば、地域の有権者からは支持されないであろうおかしな政策・政治理念を述べる候補者が、たくさんのお金を配って当選してしまえば、本来は落選してしかるべきなのに、お金が介在することで当選してしまいます。

ほかにも、(政治資金規正法違反なのに)多額の寄付金をもらうことで、豊富な資金力をバックに、当選してしまうということも考えられるところです。

その結果、民意が正しく議会に反映しないことになります。

ひいては、特定業者、特定人と結びつくことによって、公共工事の受注、補助金の交付等に見返り、特定の人に有利になるような政策が実行され、政治の公正さが歪曲されることも考えられます。賄賂等の授受の問題として現れる可能性もあります。

「政治とカネ」にまつわる不祥事は、公正・正確に反映されるべき選挙結果を歪め、汚職等を呼ぶことにつながる可能性があることから、許されないと思います。

なお、最後に、企業献金についても考えてみたいと思います。上記で述べたように、政治とカネの不祥事が問題視されるのは、お金の力で政治の公平性・民主主義などが歪められてしまうと指摘しました。同じ理由から企業献金についても一律に禁止すべきではないかという考え方があるのです。

確かに、特定の政党が企業から莫大な献金を受ければ、おのずと、その企業の意見を無碍にすることはできないでしょう。お金をもらっている以上、その企業や企業が属する業界にとって有利な政策実行をしてしまう可能性が出てきます。しかも、企業献金を行う場合、会社の株主には様々な思想を持っている人がおり、特定の政党に献金した場合、その政党にネガティブな感情を持っている人の政治思想と相反します。そのうえ、個人の献金に比べて、企業の献金は段違いに額が大きいので、影響力も多大です。

このような理由から、企業献金は政治の公平性を歪められてしまうため、一律に禁止すべきだという考え方があるのです。

それに対して、裁判所の考え方は、一貫して、企業が行う政治献金は違法ではないとしています。少し古い判例ですが、昭和45年6月24日に最高裁判所が言い渡した大法廷判決(民集24巻6号625頁)では、会社にも政治的行為の自由があるとして、企業献金をすることを容認しています。

また、名古屋高等裁判所金沢支部が平成18年1月11日に言い渡した判決でも(判例時報1937号143頁)、「憲法の定める議会制民主主義は、政党の存在を抜きにしては到底その円滑な運用を期待することはできないから、…会社が政党又は政党資金団体に対してする政治資金の寄附は、これを客観的、抽象的に観察すれば、政党の健全な発展に協力する趣旨で行われるものと解されるのであり、政治資金規正法も会社による政治資金の寄附そのものを禁止することなく、一定の限度でこれを許容していることを考慮すると、特段の事情のない限りは、会社がその社会的役割を果たすためにしたものというべきである。」と判示し、この事件の事実関係のもとでは、献金した会社の「経済的ないし社会的信用を維持する効果を有する目的もあってされた」ことも相まって、会社の企業献金は違法ではないとしています。

つまり、裁判所は、企業が献金することは会社の社会的役割を果たすために、むしろ積極的な意味を見出していることが窺えるといってよいでしょう。

企業献金を禁止すべきか、それとも認めるべきかについては、政策論として重要な問題であると考えられます。

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