事務所を借りるときに気を付けなければいけないことはありますか。自分の身内が格安で貸してくれるといっていますがいいでしょうか。

〔この記事のまとめ〕

身内から事務所を借りることは違法ではありませんが、相場の賃料に比べて、法外に高すぎず、安すぎず、留意しましょう。

〔本文〕

国会議員は、日々の活動のために、自分の事務所を地元に構えていることが多いようです。では、その事務所を、自身の配偶者だったり、自身の身内から借りている場合にはどうでしょうか。国会議員は、税金を原資とする政治資金を得ていることが多いので、公金である政治資金を自身の家族に流しているのではないか、私物化ではないのか、こんな批判が聞かれます。

そこで、衆議院議員Aさんの政治団体が、自身の配偶者(夫または妻)であるBさんから、Bさんが所有しているビルの一室を事務所として借りた場合、その賃料支払いが違法なのか、違法でなかったとしても問題はあるのかについて考えてみたいと思います(事務所を借りる場合、Aさん本人で借りるよりもAさんが立ち上げた政治団体名義で借りることが多いと思われます)。

まず、このような支払いが違法であるかどうかですが、結論からいえば、支払っている事務所の賃料が、相場の賃料から法外に離れていない限り、違法ではありません。

もしも、相場の賃料に比べて、支払っている賃料が法外に高い場合には、衆議院議員Aさんが支払っている賃料と相場の賃料の差額分について、大家さんであるBさんに対して寄付を渡しているということになると思います。

その場合、差額分相当額を寄付しているということを収支報告書に書かねばなりません。それを記載していないという意味で、収支報告書不記載になり、政治資金規正法に違反します。

さらには、配偶者であるBさんが有権者であれば、有権者に対する寄付の禁止(公職選挙法199条の5)に抵触する可能性もあります。

一方で、相場の賃料に比べて、支払っている賃料が法外に安い場合には、それはそれで困ったものです。もしも法外に安い場合には、Bさんから相場の賃料との差額分を寄付としてもらっていることになりますので、寄付を受けたということを収支報告書に記載しなければなりません。それを書いていないということであれば「不記載」ということになります。

(設定した事例からは離れますが、もしも、Aさんの政治団体が後援会などで、大家さん側が、Bさんが設立した会社である場合、不記載だけでなく、政治資金規正法上の企業献金禁止にも抵触しうることになってしまいます。)

つまり、ここで重要なのは相場の賃料に比べて、法外に安いか否か、高いか否かということです。

ただ、相場の賃料に比べて、若干高い、若干低いといったことでは違法にはならないでしょう。我々が普通に家を借りるときに、似ているような物件でも微妙に賃料が異なることは珍しいことではありません。日当たり、建物の形、築年数によって、同じような場所、同じような広さ、同じような間取りでも、若干の誤差は出るものです。

ですから、相場の賃料に比べて半額であるとか、2倍であるといった場合は、「法外」に高い・安いなどとなり、法的に違法であることが疑われるでしょう。

では、次に、違法でない場合であっても、それは批判の対象にならないのでしょうか。

ここには様々な考えがあります。一つには、相場の賃料を支払っているとしても、別に身内からわざわざ事務所を借りなくてもよいのではないか、それって公金を身内に流すためではないのか、結局のところ、政治資金を自分のポケットにしまってしまう行為ではないかという批判がなされることがあります。

このような観点からの報道は多いように思います。

しかし、一方で、政治家が事務所を構えるときに、物件探しは難しいといえます。せっかくなら大通りに面した物件がいいですし、駅から見えるような物件がいいはずです。もしも、第三者から借りれる物件は裏通りのある物件しかなくて、一方で、配偶者が持っている物件が大通りに面していたら、大通りに面している物件を借りたいと思うはずです。

他にも、大家さんの考えによっては、特定の政党の政治家には貸さないといわれることもあり、その場合、身内がビルを持っていれば、そこから借りるしかない場合もあります。

つまり、身内から部屋を借りる場合であっても、一概に、公金を身内に流すためだ、けしからんという反論が、当たっていない場合があるのです。

相場通りであることは当然であるとしても、どのような理由で身内から借りているのか、ひょっとしたらその物件を借りざるを得ないのか、こういったことについて注視しつつ、見極めることが必要ではないでしょうか。

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