投資用マンションを購入しました。けれど、購入価格が相場の実勢価格(実際の取引が成立する価格)よりも極めて高かったことがあとで判明しました。相場の価格をきちんと説明すべきではないでしょうか。

不動産は高額なものですから、不動産を購入することは、人生の中でも一大事です。

 買主として不動産を購入したものの、その後にひょんなことから、購入不動産について新しい情報を知ってしまうことがあります。その情報が、例えば「もしも、きちんとした説明や情報が与えられていたら、今回の不動産を購入しなかったのに!」と思ってしまうような場合であれば、買主としては、不動産の取引を白紙にしてほしいと思うことでしょう。

 買主としては、「だまされた」とか「変な物件をつかまされた」という感覚でしょうが、「誠実な説明がなされていれば、買わなかったのに」という問題は、一般的には「説明義務」の問題と呼ばれます。

 つまり、不動産を売却する場合、売主等には「説明義務」が課されており、場合によっては、ウソをついたわけでもなんでもないのに、適切な説明をせずに不動産を売却したことによって、買主が被った損を賠償しなければならないケースがあるのです。

 ただ、説明義務が課されているといっても、いまいちピンときません。例えば、売主に説明義務があるといっても、売主であっても自分の不動産について知らないことも当然にありますので、それにもかかわらず「ありとあらゆることについて説明しなければならない」といわれるのはたまったものではありません。

 そこで、「説明義務」の中身を知りたいことになるわけですが、残念ながら、「~は説明しなければなりません。××は説明しなくても大丈夫です」と簡単に割り切れるようなものではありません。

結局は、ケースバイケースの判断になってしまいます。

 例えば、質問であるように、自分が不動産を購入するも、その購入価格が、相場価格(実勢価格)に比べて、やたらと高かったことが判明したら、どうなるでしょうか。購入した側としては、「丁寧な説明をなされていれば、こんな物件を買わなかった。相場の価格について説明する必要があるのではなかろうか」と思うかもしれません。

 このようなケースに関して、東京地方裁判所は令和4年1月28日に大変参考になる判決を言い渡しました。

 買主であるXさんは25歳の学校教師でした。Xさんは平成28年9月に、不動産業者であるA社から投資用のマンション3件を購入しました。マンションの一つは、850万円、もう一つは870万円、そして3つめの物件は750万円でした。A社の担当者はXさんを勧誘するにあたって、試算表を示して、Xさんがマンションを購入した場合、家賃などが入ることを説明して、儲かる旨を説明しました。また、数年間マンションを保有して、しばらくしてマンションを売却すれば売却益が発生することも説明していたようです。

このような勧誘もあって、Xさんはマンションを購入しました。ところが、購入したあと、Xさんは、A社がこれらの物件を、一つ目が520万円、二つ目が520万円、3つめが420万円という安い金額で仕入れていることを知りました。

しかも、A社は倒産してしまったこともあり、結局、Xさんは今回のマンションを二束三文で別の人に売却して、多額の損害を負ってしまいました。

Xさんは、A社の従業員を相手に、きちんとした説明を受けなかったことによって、損をしたとして訴訟を起こしたのです。

 まず、一般論として、裁判所は、①Xは投資の経験がなく、不動産取引や投資に関する知識は乏しく、②A社などは不動産取引における専門的な知識や経験を持っていることが想定された状況であったことから「総額2470万円にのぼる高額な不動産投資を勧誘するにあたっては…投資内容に関わる重要な情報とリスクについて、必要かつ相当な範囲で正確な情報を提供」しなければならない、としました。

 「重要な情報とリスクを必要かつ相当な範囲で説明せよ」というのは、どんな内容をどの程度説明するのか、よくわかりませんが、ただ、この事件では、買主が取引に関して知識が乏しいことが重要視されたように思われます。もしここで、買主が不動産取引に明るい人であれば、その分、売主に要求される説明義務の範囲や程度も狭くなっていたものと思われます。

 そして、裁判所は続けます。

A社の担当者は、Xに対して、マンションを購入した場合、どの程度、収益があがるかについて試算表を示しているが、これがずさんであり、不正確な内容であった。特に、A社の担当者は、Xに「途中でマンションを売却して、その売却金額で、新しい物件を購入することもありますよ」と説明したように思われるが、今回のマンションはいずれも、築年数が古く、もし、Xが将来、マンションを売却しようとしても売却益が得られる見通しがあったとも言い難い。そうすると、A社担当者の説明はほぼ成り立たないことになるから、実勢価格がどの程度のものであるかは、勧誘にあたって極めて重要な情報であった。

 そして、不動産取引を扱うA社の従業員としては、今回のマンションを購入する場合の一般的な価格や、近隣の取引事例などを調べることは容易であった。それなのに、実勢価格を説明しなかったのであり、説明義務違反があったというほかない。

 

 としたのです。

 これは、実勢価格を必ず説明しなければならない、という簡単な話ではありません。多くの不動産業者が、安く仕入れて、高く売るという行動原理で動いているわけですから、仕入金額を常に説明しなければならないということにはならないと思います。

 ただ、上記のケースで、説明義務違反が認められたのは、

①Xさんが、不動産取引の素人であったのに対し、A社の担当者は不動産取引のプロであったと思われること、

②A社の担当者と、Xさんとの間では「マンションを数年間保有して、売却すればそこで売却益が発生する」ということが前提になっていると思われるのに、今回の説明は、それ自体ずさんで、実勢価格がいくらであるかは取引を行ううえで極めて重要な情報であること、

③A社の担当者はそれを説明することは簡単だし、説明するのに支障はなかったと思われること、

 などの要素があったからだと思います。

 説明義務違反がどのような場合に認められるかについては、結局、ケースを積み重ねて、大まかな傾向を窺い知るということしかできません。

しかし、あえて誤解を恐れずに、一般化するとすれば、

①説明しないことによって、買主側に多額の損害が発生したり、

②買主側が全く不動産取引に通じておらず、理解力も乏しい、

③売主等にとって情報を説明することは簡単である、

などの事情がある場合には、

売主等は、「その情報が不動産取引を行うか行わないかを決定づけるような重要な情報」について説明しないと、説明義務違反であるといわれてしまう可能性が高くなってしまうのではないでしょうか。

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