〔この記事のまとめ〕
不動産を貸すか否かについては大家さんが選べるものの、やはり、サービスを拒むことについて何らの合理的な理由がない場合には、大家さんが契約を断るのは許されないと思います。大家さんとよく話し合って、なぜ断るのか、理由を明らかにしてもらいましょう。また、自分が大家さんの立場である場合、このような理由で断ることは許されないので、きちんと相手の方と話し合いましょう。
〔本文〕
外国籍の方が家を借りようとするときに、なかなか家を借りることができないという声を聞くことがあります。またセクシュアルマイノリティのカップルが家を借りようとするときにも断られてしまうことがある、という話も聞きます。
なぜ断られてしまうのか、その理由について、外国籍を持つ方の場合、①賃料を払わずに帰ってしまうのではないか、②マナーなどが異なることからトラブルが起こるのではないかなどの理由から、大家さんの中で、貸したくないと考えている人がいるということを聞いたことがあります。
また、同性カップル(特に男性同士のカップル)については、①家を汚しそう、②何か犯罪に使うのではないか、③騒ぐのではないか、といった理由によって貸したくないと考える大家さんがいるようです。
確かに、不動産は大家さんのものですから、誰に貸すのかは、大家さんが決めるべきことであって、大家さんの自由ですが、一方で、多様性を尊重し、お互いの人権を守ることが重要といわれる社会において、上記のように、外国籍であったり、同性カップルであることによって、入居を断ることは、決して好ましいことではありません。
このようなことは果たして違法なのか、過去の裁判例を紐解いてみましょう。
過去の裁判例などを参考にすると、大家さんが何らの合理的な理由もないのに、入居を断る場合には、違法といわれる可能性が高いと考えられます。
例えば、平成14年11月11日に言い渡された札幌地方裁判所の判決(判例タイムズ1150号185頁所収)があります。これは、賃貸の事案ではありませんが、外国人の方が公衆浴場を利用しようとしたところ、それを、お店の人が、外国人であることを理由に利用できないとして、一律に公衆浴場への利用を拒んだことが問題になった事件です。
裁判所は、安易にすべての外国人の利用を一律に拒否することは、明らかに合理性がないとして、違法であるとしています。
また、平成29年8月25日に言い渡された大阪地方裁判所の判決(判例タイムズ1446号217頁所収)は、外国人であることによって、(被告会社が展開する中古自動車の販売事業に関する)資料の送付を拒んだという事件でしたが、それについても、外国人だからといって、資料送付を拒み、契約締結を一律に拒否することには何ら合理的な根拠はないとして、違法としています。
一方で、平成13年11月12日に言い渡された東京地方裁判所の判決(判例タイムズ1087号109頁所収。なお、控訴審である東京高等裁判所平成14年8月29日判決でも結論を維持)は、永住資格のない外国籍の方が、住宅ローンの申し込みを行ったところ、それを断ったことが問題になった事件です。
この件では、裁判所は、断ったことについて合理性がある(適法である)としました。永住資格がない外国人の場合、長期間にわたって日本に滞在できるのかどうか不確実な立場(地位)にいると思われるところ、住宅ローンの利用となると、支払をしなければいけない期間が相当長期間にわたってしまうことから、永住資格のない外国人に対してサービス提供を拒むことは適法であるとしたものです。
これらを踏まえると、不動産を貸すか貸さないかは大家さんが選べるのが大前提であるとしても、やはり、貸すのを拒む理由として、何らの合理的な理由がないという場合には、その拒絶は許されないことになります。
では、外国人であるからといって、不動産の賃貸を拒むことができるような合理的な理由というのは、果たしてどのような場合なのでしょう。例えば、観光ビザで来日している外国人の方に対して、2年間の不動産貸付については断ることは許されるように思います。けれども、「マナーなどが異なることからトラブルが起こるのではないか」「汚くするのではないか」といった理由で断るのはやはり許されないでしょう。
また、セクシュアルマイノリティの同性カップルであることによって拒むことが正当化されるような事情があるというのも、あまり思いつきません。「何か犯罪に使うのではないか」「騒ぐのではないか」「セクシュアルマイノリティの方に会ったことがなく、何となくいやだから」といったものもただの偏見です。断る理由としては許されないでしょう。
そのため、外国人であること、セクシュアルマイノリティたる同性カップルであることによって、不動産の利用を拒むのは、やはりそれなりの理由がある場合でなければ正当化されず、契約を拒むことは許されないと思います。
もっとも、大家さんによっては、(セクシュアルマイノリティであることを問題視しているのではなく)男性同士に貸すことに警戒するようで、かえって、同性カップルであることを告げたほうが貸しやすいという話も聞いたことがあります。 いずれにせよ、大家さんとしては、借りたいといっている人に対して、何らの理由もないのに、思い込みや偏見で、契約を拒むのは控えるべきだと思います。
ですから、賃借人(借りようとしている人)の立場で、賃貸を拒まれたら、なぜ断られたのか、その理由を明らかにしてもらうべきです。
また、もしも、大家さんの立場で家を貸すことを拒みたいと思った場合、何らの合理的な理由なくして、外国籍であることやセクシュアルマイノリティであることによって、契約を断ることはできませんから、お相手の方と真摯に話し合って、対応すべきです。